発売当初から大人気のGRⅣ。
コンパクトデジカメながらAPS-Cサイズのセンサーを備え、プロの写真家からも高い評価を受けていた。
彼がそれを手に入れたのは、都内の中古カメラ店だった。
外装は美しく、シャッター回数も少なく、まるで新品同様だった。
ただ、気になる点が一つあった。
ファームウェアのバージョン欄に「Ver.■■■■」と表示されていたのだ。
検索してもそのバージョン情報はどこにも存在せず、販売元にも記録はなかった。
試しに電源を入れると、起動音の代わりにわずかなノイズが響いた。
それを皮切りに、彼は異様な写真を撮り始めることになる。
最初に違和感を覚えたのは、夜の散歩の帰り道だった。
何気なくシャッターを切ると、プレビュー画面には“誰もいないはずの路地”に
人のような影がぼんやりと写っていた。
再撮影しても、同じ位置に影が現れる。
以後、カメラはまるで何かを“映そう”とするかのように、暗所でのみ異常な感光を起こすようになった。
シャッターを切るたび、現場には存在しない光源と人影が写り込み、
やがて撮影者自身の姿がフレームの隅に現れるようになったという。
最後に残されたデータの撮影日時は「00:00:00」、ファイル名はすべて「return.jpg」だった。
解析班がその画像を開いたとき、そこには確かに“彼の部屋”が写っていた。
机の上にはGRⅣ、コーヒーカップ、そして開いたままのノートPC。
しかし──椅子は空だった。
数秒後、画面の奥で微かに揺らめく影が現れた。
それはゆっくりとレンズの正面へと近づき、やがて画面いっぱいに“誰かの顔”が映った。
その顔は、行方不明者本人のものと一致していた。
解析中の映像に異常が発生。
画像データの解析ソフトが自動的にカメラモードへ移行し、モニター越しに「シャッター音」が響いた。
同時刻、記録室の防犯カメラには、誰も触れていないはずのSFP-7428のシャッターが切られる様子が映っていた。
新たに保存された画像ファイルは一枚。
ファイル名:「return(2).jpg」
その写真には、解析班の背後から覗き込む“撮影者のような人影”が、はっきりと写っていた。
アイテム番号: SFP-7428《虚写子》
オブジェクトクラス: 揺
特別収容プロトコル
SFP-7428は遮光処理を施した保管庫に収容し、起動は禁止されている。
メモリーカードの抜き取りは許可制とし、解析は常に隔離端末で行うこと。
ファイル名に「return.jpg」「home」「■■■■」を含む場合は即時削除。
説明
SFP-7428は外観上、一般的なコンパクトデジタルカメラと同一である。
ただし、特定の環境下(低照度・人の気配のない場所)で撮影を行うと、
現実には存在しない人物や構造物が映り込むことが確認されている。
- 異常な被写体の出現 撮影環境に人がいない場合、画像内に未知の人影が写り込む。 影の位置は固定されており、撮影角度を変えても同じ座標に現れる。
- 自己写り込み現象 撮影者が撮影対象に背を向けていても、画像には撮影者の背面像が確認される。 影は次第に被写体に近づいていくように変化する。
- 記録改ざん 撮影データのExif情報は自動的に改変され、時刻はすべて「00:00:00」、位置情報は削除される。 メモリ内に保存された画像は周期的に消失し、消えた画像の一部は他端末に複製されることがある。
- 心理的影響 撮影者は「画面の向こうに何かがこちらを見ている感覚」を訴える。 長期間使用者は視覚過敏、光への恐怖、鏡像幻視を発症する傾向がある。
補遺 7428-γ: 実験記録
- 実験05: 無人の廃駅構内を撮影。映像内に反射するガラスに“撮影者の背中”が写っているのを確認。
- 実験08: レンズを塞いで撮影しても、暗闇の中に人の輪郭が浮かび上がる。
- 実験11: 夜間、対象を地上から撮影した映像の中に“同時刻の研究室内部”が微かに写り込む現象を確認。
関連する実在アイテム(参考リンク)
※以下は通常の商品であり、異常性は存在しません。
注意
- 本記事はフィクション(異常性設定)と実在商品の紹介を組み合わせたものです。
- 実在商品は異常性を持ちません。


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